2013/01/16

若いソフトウェアエンジニアにとって、日本の伝統的価値観は実は学びが多いんだね 〜 Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013 2日目参加レポート

タイトルの通り、Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013の2日目(1/16)に参加してきました。申し込み締め切り前日に業務調整して、潜り込みました^^; いやはや危なかったです。

今回、参加しようと思ったきっかけは、半年くらい前に職場の同僚から野中先生の「The New New Product Development Game」という1980年代の論文がScrumの父Jeff Sutherland氏に影響を与えて、Scrumが生まれたという歴史を教えてもらったことです。それまで他の開発手法と同じく輸入学問としてAgile/Scrumを学んでいたのですが、発祥が日本!という話を聞いて歴史に興味を持って、歴史を書いているブログを読んだりしていました。

その後しばらくして、Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013の開催がアナウンスされ、そして野中先生と平鍋さんの共著「アジャイル開発とスクラム 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント 」が出版され、対談まであると知り、日本人なら聞いておくべきだろ!と思い立って参加に至りました。

■野中郁次郎氏: 実践血リーダーシップとアジャイル/スクラム〜イノベーションを生み出し続ける組織に求めるリーダーとは〜



とりあえず発表が難しすぎてよくわかりませんです・・・^^; 難しくてよくわかりませんなりに、野中先生の話の中で私なりに大事だと感じたポイントをつらつらと挙げていきます。

これはアジャイルの大事な価値観であり、その源流にある日本のものづくりで大事にされている価値観でもあるんですよね。昔、本田宗一郎氏、井深大氏など偉大な職人達が実践していたことが、長い年月を経て、日本に逆輸入されて、もう一度脚光を浴びているという事実を認識して、昔のものづくり企業についての本をちゃんと読んで見たいと思いました^^;

(1) 場:知は場で創発される〜場:動く文脈の共有(Shared Context In Motion)(資料p.22)

まず、アジャイルそして日本のものづくりで大事にされている価値観がこの「場」だと思います。製造業ではよく使われている「ワイガヤ(資料p.44)」を行う「場」ですね。関係者が全員集まって、ご飯食べたり、生活の一部を共にしながら、仕事について本音で話し合うことで製品を洗練させていく。そういうことをやるのが「場」です。

私の考える、この動く文脈を共有する「場」が大事にされる理由は・・・
  • まず、野中先生もおっしゃったように「言語化には限界があること」。
    • 人間の知識の大部分は暗黙知で、ウォーターフォール型開発プロセスのように工程間を成果物としての文書をバケツリレーするような形では人間の知は伝わらず、作っていくプロセスの中で劣化していってしまうのだと思います。
    • そして教育においてもマニュアルでは実践的な知は伝わらず、OJT(日本語的には徒弟制度)で師匠と一緒に仕事して、師匠の所作を目で見て覚えるしかない。
  • そして、今は組織としていかに付加価値を生み出すかが重要になっていること。付加価値を生み出すには、個人と個人が対話して、個人の知識を組み合わせ、増幅させ、そういう相互作用を通して、価値を作っていくということが大事なのかなと。

後者については、仕事の中で、あるいはコミュニティでよく体験する話だなと思います。いろんな人がとわいわいやっているうちに、いろいろな人のアイディアが結びついて、最初には思いつかなかったようなところに行き着く体験。ありませんか?例のあれです。

(2) 価値命題はユニークなコトの提供(資料p.28)

この話では、iPodの例が挙がっていましたね。Appleが消費者に提供したのは、どこでも音楽を持って出かけられるという新しい音楽体験、つまりコトです。でも、人はiPodやiTunesというモノを通してしかコトを理解できません。消費者に体験させたい音楽体験があって、それを実現するためにiPodやiTunesというモノを作って提供しているわけです。おそらくサービスを設計するプロセスもコト→モノの順番なんですよね?

仕事でソフトウェアを作るときも、上司やらお客さんから言われるのは価値、ソフトウェアが実現する体験の方ですよね。その価値や体験が何なのかは言っている方も最初は分からないので、私も最近はソフトウェアを作る時にヒアリングした範囲で一番コンパクトなプロトタイプを作ってはデモしてみせて、「要はこういうことですよね?」「いや違うって」というやり取りを繰り返しながら、モノを作って触りながら同時にコトの話を固めていきます。

モノを作ってみて、モノを触りながらコトを考えて、コトが明確になることでモノにフィードバックがかかって、目的の品質に到達する。アジャイルでやってることはこういうことですよね。

(3) 組織と技術のイノベーション:自己相似形のフラクタル組織へ(資料p.59)

資料に書かれているのは、ダイハツ「ミライース」の開発事例です。いろんな部署の人が連携するのではなく、1つのプロジェクトチームに全員を転籍し、チーフエンジニアに人事権を委任して、製品全体をカバーする組織を作ったという例。これは激しい変化に対応するには、現場と経営層が連絡を取りあって意思決定を遅らせるのではなく、会社内にある個々の組織が市場の変化に合わせて機動的に動けることの重要性が高まっているということでしょう。

こういう会社組織の中に、もう一つ全機能が揃って自律的に動く組織を作るというやり方は、急激な変化に対応するための有効な手段として色々な組織で実践されているようです。
  • JALを再建中の稲盛氏(京セラ会長)は著書「アメーバ経営 (日経ビジネス人文庫) 」で、同様に全機能を持って自律的に動く組織を作ることを推奨しています(資料p.61)。その組織が生み出した「時間あたりの付加価値」が分かるようなインセンティブ手法を確立し、製品開発に必要な社内の調達も市場取引と同じようにやっているそうです。これにより、市場が変わるとその変化が社内取引にダイレクトに反映されて、各組織が自律的に「時間あたりの付加価値」を最大化するように動き始めるそうです。
  • 野中先生が研究されている海兵隊の組織も同様だそうです(p.64)。どの部隊を取っても陸海空の兵力を保有して、独立して任務を遂行できるようになっているとか。
#自動車業界ではけっこー有名なやり方?

(4) 日本的経営のDNA「武士道」:社会的価値の共創

海外では株式会社というのは、その出自からして投資家にとっての価値を最大化することが大事とされてきました。そして80年代から市場原理主義的な動きが体制を占めていました。結果として、行き過ぎた資本主義結果、貧富の格差いが拡大し、その抗議行動としてOccupy Wallstreatに類似したデモ活動が世界各地で行われましたね(資料p.73)。世界的にも市場原理主義への反発が行われていて、マイケル・サンデル教授の講義もその現れでしょう(p.76)。より良い生き方、共通善をもう一度問い直そうという動きです。

そういう中で、野中先生が主張しているのが日本的経営の価値観「世のため人のため」を見なおそうということ。投資家が良ければOKではなくて、従業員も地域社会も企業を取りまくステークホルダーの幸福を目指す企業であれということです。近江商人の三方良しの話からして、かなり昔からあったようです。社会が幸福になる理想を思い描きながら、絶えずベターな解を求めていくのが日本的価値観なのだという話をされていました。

野中先生の話を聞いていて、たしかに、私が子どもの頃に亡くなった父方の祖父や、あるいは母方の祖母(存命)の世代には日本古来の道徳心のようなものが感じられました。ただし、今の若い世代には失われたものと思っている人もいるかもしれませんが、3.11以後のボランティア活動の高まりとか見ても、若い人も頑張ってますね。

■最後に:野中先生からのメッセージ

最後に話されていたのは、これからの実践知リーダーには、資料p.81にあるように頭(Mind; 西洋的思考)と体(Body;東洋的思考)を併せ持った身体化された心を持ち、共通善に向かって「より良い」を追求していく姿勢が必要だということ。スクラムはこの西洋と東洋の思考スタイルが合流してできたスタイルですね。

そして、ソフトウェアでは海外(特にアメリカ)に負けちゃってるけど、日本の若い人には海外には負けない国にしてほしいとのこと。ものすごい壮大なこと期待されていますが、今、20〜30代の人はそういう使命を持っていると認識して明日から頑張って行きましょうか。

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