2013/09/29

小林雅一著 「クラウドからAIへ 〜アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場〜」

クラウドからAIへ アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場 (朝日新書) 」はGoogle、Apple、Facebookといったシリコンバレーの有名IT企業によるAI(人工知能」の研究成果、および製品開発の動向を一般向けに解説した書籍です。

Google、Apple。彼らは最近ウェアラブルコンピューティングの開発競争を加速化しているのは報道の通りです。その意図は「ユーザのネットアクセスの大本を牛耳る」ことだそうです。大本を牛耳ることができれば、そこからユーザ操作に関する膨大なデータを収集し、ユーザの意図を解釈し、自社のサービスへの誘導したり、適切な広告を配信することで莫大な利益を上げることができます。

その次なる主戦場で重要だと考えられているのが人間の意図を解釈できることだそうです。スマートフォンを開き、スクリーンを覗き込みながら、煩雑なボタンを操作するのではなく、人間の視線、人間の発話、ジェスチャーからその人の意図を解釈し、適切なフィードバックを返すことに力を注いでいます。

その人の意図を解釈する際に活躍するのがタイトルにもある、AI(いわゆる人工知能)の技術です。AIは今から40年以上も前に登場し、知識表現、数理論理の面で研究成果は挙がりましたが、当初期待されていた「人と同じように考えるコンピュータ」の実現は至難の業であるとされてきました。古典的な方法(ルールを記述することで人と同じような解釈ができる)では思い描いた成果が得られなかったのです。

そこでGoogleのサイエンティストが着目したのが統計・確率的な手法で、人工知能を実現することでした。人間の作成したデータを統計解析することで、意味解釈はせずに人の意図を解釈することが部分的に可能になってきました。(例えば、I love youという文章についてI の後にloveが続くと、90%の確率でyouが続くといった風に)古典的な研究者からはそこには知性のかけらもないし、展望もないと批判されているそうですが、古典的な研究では得られなかった実用的な成果を挙げているのは確かです。

さらに今流行りが古典的なニューラルネットワークを進化させたディープラーニングという手法が取り入れられ始めているそうです。(説明が難しいので割愛しますが、人間の脳の知覚メカニズムを模倣したモデルです)近年の成果だと自動車の自動制御などにも応用されているそうで、自動車の運転などは10年以内に商業ベースに乗るとの観測もあります。事故が起きた場合の責務は誰にあるのかといった法的な課題はあるそうですが、期待される技術ではあります。

わーすごいと読み進めていくと、最後の最後で、これらの人工知能の技術がもたらす未来はどうなるかに視点が移ります。今まで機械ではできず、人間でないとできなかったことが次から次へと機械に置き換わっていく可能性があるのです。

製造機械など単純な手順の繰り返し作業は昔から自動化されていますが、今後は人でしかできなかった知的な判断を伴う作業が機械に置き換わる可能性があります。機械に置き換わると当然、失業が発生します。失業が増えると情勢不安につながります。産業革命が起きたイギリスでは仕事が機械に置き換わるとして、機械を打ち壊す大規模な運動が起きました。その現代版がそのうち起きるのでは?

人工知能の発達で恩恵を受けることは非常に多いことは確かですが(例えば、自動運転で交通事故は減らせるなど)、一方で急速に人工知能が発達する中であなたの仕事が果たして機械に奪われない保証はあるでしょうか?産業の発展と共により高度な仕事に移行する準備はしていますか?考えさせられる本です。

 

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